“リアル・ブルーロック” 興國高校サッカー部のススメ

3. 裏テーマ視点 「育成」というテーマを通じて感じること

最後に伝えしたい魅力、それは「育成」というテーマの持つ普遍性。

興國高校が注目を集める理由、それは数多くのJリーガーを輩出するその実績が前提にあるのは間違いないが、その実績を生んでいる背景には、この作品のもう一人の主人公の存在がある。

チームの監督を務める、内野智章監督の存在だ。

内野智章監督は、ほぼ菅さん。

その声質、関西弁で罵声を浴びせる姿、そして徹底して合理的な思考。

人間を8クラスターくらいに分けたなら、内野監督と菅さんはまず同じクラスターに属すだろう。16クラスターくらいまで分けたなら、違うかも。(内野監督は、手は出さない。)

ただし試合中に選手にかける言葉の数々は辛辣で、(彼をよく知らない人からすると)ときに過度に攻撃的であるかのように映る。

そんな彼の「リアルな声」が聴ける動画を紹介しよう。一欠片の遠慮も、忌憚もないコーチングの数々は、見ていてもはや痛快だ。
(元気のないときに見たら「俺はこれよりマシなんだ」と思えて、ちょびっと元気が出るかも。)

試合の映像を撮っているカメラとマイクが興國高校ベンチサイドに非常に近く、内野監督の「怒声」が試合中通してはっきりと収められている。

以下、注目のシーンをピックアップしているので、是非聴いてほしい。

  • 18:08 「トシヤからやぞ、黙んなょお前!!
  • 21:25 「えぇぇ??!今のは!(呆れ)」「今のは相手がコケただけじゃん!」「いやいやいやいや、いいプレーはやらしてあげないと上手くなんないじゃん!」「やりすぎや、それは。どんなファールやねん」
  • 22:50 「シュンペイ、絶対やったあかんであれ!どんなお前判断であんなとこ行くんだよ」「はいクニタケの意味わからんロストからな〜。ヨシト横にいたからな〜。」
  • 23:18ワトぉ!ワトぉぉ!ワトおおおおお!!!!!」「早く出すんだよフラットの時は、分かるー??
  • 27:06 「タイヨウ、さんきゅー!次、次、声掛けろ。マオ、しゃべれー

新しいミスをしよう。

試合中の声掛けだけを聞くと、なんだよこんなんただの輩じゃん…と戸惑うかもしれない。
(あるいはMP時代の浮田局フロアにタイムスリップしたかのような感覚を覚えたか)

しかしハーフタイムには、こんなメッセージで選手を鼓舞する。

あれだけツータッチでやれって言って、よくダイレクトでミスれるよねお前。どういう感覚なの?
言われて、最初のプレーくらいで、ワンタッチで、失うってどういう感覚なの?

挑戦しないということでいいですか?
分かってるけど、僕は取られるのが怖いのでやりませんということでいいですか?
もう戦わないってことですよね、それでいいですか?
戦う奴がああやって逃げる、逃げたよねでも。
皆んなが挑戦して、もっといいチームにしようぜって言ってるのに、逃げるの。

迷うな。信じろ。

挑戦して失敗しないと、判断ミスの失敗なんて後悔しか残れへんやん。
失ったら福田師王がいてるって究極の相手や、大迫塁がボール持って前入ったら何でもできる。
リスクがあるわけや失ったら。だから最高の相手やん。
ワンチャンで仕留めてくる奴がおんねん相手に、そういう相手がおる中で君たちはどうやって勇気を持って、距離感を持って自分たちのストロングを出していくの。

やろうや、最高の相手に。
いつものことやって試合終わったら何の意味もない。
新しいミスをしろ、新しいミスを。
出れてない奴、おんねんぞ。いつも通りで、昨日と同じ自分で終わっていいんか?違うやろ。
出れてない奴おんねん。今日朝から皆んなで集合して出れないやつ。二十人近くいてんだよ。
成長しよう成長、オッケー?

内野監督の育成哲学。

最後に、監督の名誉のために、というか僕が内野監督いいなと思った点をちゃんと伝えるために、彼の著書から育成に関する考え・哲学について語っている記述を抜粋して紹介します。

進路が決まるまでは、厳しくコーチングをする

僕は点差がどうあれ、やるべきプレーをしない選手には、かなり強い口調で指摘します。なぜかというと、JクラブのスカウトやJFAのスタッフ、興國のファンの方たちなど、たくさんの人がプレーを見ているからです。その中で軽いプレーをしたり、集中が切れたプレーをすると、個人の評価が下がってしまいます。

もっと言うと、彼らの一つひとつのプレーには、自分の将来がかかっています。良いプレーを積み重ねれば、プロから声がかかったり、代表に呼ばれるかもしれません。
僕は選手たちに「大差で勝っていようが、やることをやらない奴には厳しく言う。それはみんなの進路に影響するからや。全員の進路が決まるまで、絶対に手を抜かれへんから」と言っています。実際に、進路が決まった後の秋頃になると、あまり言わなくなります。

試合中は指摘して終わりではなく、「なぜ強く言ったのか」を説明し、必ず次の試合で起用します。そして、できたときはめちゃめちゃ褒めます。
選手には「最初はできなくて指摘されたけど、努力したらできるようになった」と言う成功体験を積み重ねてほしいのです。それが「もっと上手くなりたい」と言うモチベーションにもつながります。

指導者は、選手に対して言いっぱなし、怒りっぱなしではなく、成功体験まで導く責任があると思います。言い換えれば、成功体験までの責任をとる覚悟がなければ、選手を怒ったり、指摘するべきではないのです。僕はそれぐらいの覚悟を持って、選手と向き合っています。

キングも後輩指導には厳しいともっぱらの評判ですが、僕にはどこか、キングの指導には内野監督の哲学に通ずる部分があると感じています。
うちの会社にたまにいる、感情任せに言いっぱなし、怒りっぱなしの奴とは、根本が違うね。

僕がキングを好きな理由の一つです。